大判例

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静岡地方裁判所 昭和38年(レ)4号 判決 1963年7月12日

控訴人 大高久雄

被控訴人 日本電信電話公社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の請求(当審において選択的に追加した民法第七一五条にもとづくもの)を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金一、一〇一円およびこれに対する昭和三七年九月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴人指定代理人らは、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張および証拠関係は、原判決の事実摘示を次のとおり訂正附加したほかは、これと同一であるからここにこれを引用する。

控訴人は、「原判決二枚目表四行目の『日本電信電話公示告示』とあるのを、『日本電信電話公社公示』と訂正する。三枚目表第六ないし第八項全文を、『六、控訴人は、静岡電話局長の本件電話加入権譲渡承認の拒絶によつて、昭和三七年七月一四日から同年九月一七日までの六六日間本件電話加入権の完全な取得を妨げられ、その結果控訴人の被つた損害は、右電話加入権の譲渡の対価である一二万円に対する右期間の民法所定の年五分の割合による遅延損害金相当額というべきであるから、計数上一、一〇一円となる。

よつて、控訴人は被控訴人に対し、国家賠償法第一条または民法第七一五条にもとづき、損害賠償として、右損害金一、一〇一円およびこれに対する遅滞の後の昭和三七年九月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める(民法第七一五条にもとづく請求原因は当審において追加)。』と訂正附加する。なお、被控訴人の過失に関する主張事実は、過失がないとの点は争うが、その余は認める。」と述べた。

被控訴人指定代理人らは、「原判決三枚目裏五行目の『四、六、七の事実を争う。』とあるのを、「四および六は争う。五のうち、被控訴人が、本件電話加入権譲渡承認申請について、昭和三七年九月一八日、東京高等裁判所において同月五日即時抗告却下の決定がなされたことを理由としてその承認をなしたこと、控訴人主張のとおり、右譲渡承認の拒絶にあたつて判例、学説を調査しなかつたことは認めるが、その余は争う。』と訂正する。

なお、本件電話加入権譲渡承認の拒絶について被控訴人に過失がなかつた点に関し、次のとおり附加して主張する。すなわち、

本件電話加入権については、本件譲渡命令発付当時、差押の競合はなかつた。

しかし、被控訴人としては、電話加入権譲渡命令による電話加入権譲渡承認申請があつたばあいは、がい命令に対して即時抗告が許されないかどうか法的に疑問があるので、事務処理上慎重を期し、一応即時抗告提起期間の経過をまつてから承認をしており、したがつて、右期間内に即時抗告が提起されたときはそれが却下されない以上承認をしない取扱いをとつているのである。

そこで、本件電話加入権譲渡申請についても、右同様の取扱いをなしたのであつて、被控訴人としては、なんらの過失もないと信ずる。」と述べた。

理由

左記の事実すなわち、

(一)  控訴人が昭和三六年一一月一〇日静岡地方裁判所から控訴人主張の内容の本件電話加入権譲渡命令の発付を受け、がい命令は同月一四日債務者長谷川富士子こと長谷川富子と第三債務者たる被控訴人とに送達されたこと

(二)  そこで、控訴人は昭和三七年七月一四日、静岡電話局長に対し控訴人主張の電話加入権譲渡承認申請をなしたこと

(三)  ところが静岡電話局長は同月三一日、控訴人主張の理由によつて右承認を拒絶したこと、そのさい、同局長は電話加入権譲渡命令に対する即時抗告の許否について判例、学説の調査をしなかつたこと

(四)  その後同年九月一八日、同局長は控訴人主張の理由によつて右承認をなしたこと

は、いずれも当事者間に争いがない。

そこで次に、静岡電話局長の右承認拒絶が違法であるかどうか、また違法であるとしても、同局長に故意または過失があつたかどうか、について検討する。

電話加入権譲渡命令は、民事訴訟法第六二五条にもとづき、執行裁判所が、電話加入権の評価額を定め、この額をもつてがい権利を債務者の債務の弁済に代えて債権者に譲渡するものであつて、第三者債務者たる日本電信電話公社へのがい命令の送違によつてその効力を生じ、これをもつてその執行は終了し、その後は即時抗告等不服申立の余地はないと解するのが相当である。この点に関する被控訴人の所論は、独自のものでとうてい当裁判所の採用しがたいものである。ただしかし、差押の競合があるのに発せられ譲渡命令は、債権者に優先権がないかぎりいわゆる金銭執行における平等主義を害するものとして、違法無効であつてその効力を生じないといわなければならない。そして、右に述べた解釈はまた執行実務における一般の取扱いであり、このことは当裁判所に顕著な事実である。

しかるところ、本件譲渡命令発付当時、差押の競合がなかつたことは当事者間に争いがないから、控訴人に公衆電気通信法第三八条第二項の事由が存したことの主張立証のない本件においては、右拒絶は違法なものといわなければならない。

しかしながら、電話加入権譲渡命令について即時抗告ができるかどうかに関する確定的な判例、学説はなく、その法的性質は、一般に、券面額のある債権について発せられるものでないという点を除くと、民事訴訟法第六〇一条のいわゆる転付命令と同様であると解されているのであるが、転付命令について即時抗告ができるかどうかに関しても、これを肯定する判例の確定した見解に対し、有力な反対学説が存在するのである。

したがつて被控訴人としては、電話加入権譲渡命令に対する即時抗告の許否に関してよるべき確定的な判例、学説がなく、転付命令のそれについても判例と有力学説が対立している以上、直ちにそのいずれかに態度を決することができず、電話加入権譲渡命令による譲渡承認申請について、当事者間に争いのない被控訴人主張のような取扱いをとつていることもやむをえないものがあるというべきであるから、本件譲渡承認拒絶のさい、とくに判例学説を調査せずに従来の取扱例にしたがつて右承認を拒絶したことをもつて、過失があるとはいいえないというべきである(なお、控訴人主張の故意を認めるに足りる証拠はなんら存しない)。

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求はいずれも、その余の判断におよぶまでもなく、失当であるといわなければならない(電話加入権の利用関係は、私法上の法律関係と解されるから、本件における電話局長の譲渡承認拒絶は、国家賠償法第一条にいう「公権力の行使」にあたらず、国家賠償法第一条にもとづく請求はこの点からも失当である)。

よつて、控訴人の国家賠償法第一条にもとづく請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却し、控訴人が当審において選択的に追加した民法第七一五条にもとづく請求を棄却し、民事訴訟法第三八四条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大島斐雄 萩原金美 合谷基子)

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